113 カラスの呪い

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「あれ? 先生、お久しぶりですね

「ん、君は…… ああオリバーヒルベルトくんか!
 ちょっと見ない間にやせたんじゃないか?

「いやー最近悩んでまして、先生少しお話でもしませんか?

──────────

そうだ、突然ぱったりと何一つ書けなくなってしまった
それはもう、掛かっていた魔法が解けたかのように

もう一度自分を取り戻したい

それがもし、賭けたもの全て代償とする呪いだったとしても

乾いた欲が喉を裂き、声にならない音を出す
しかし、それすらも言葉へ変えることは出来ず
変わらぬページを捲るため、裂けた喉を癒すため
幾つもキャンディーをほおばった
だが渇き過ぎた自分には、どんな飴すら甘過ぎて
もう、細かな味の区別が付きやしない

今日も、ほんの小さな快楽だけを転がし続ける
少しでも長く、溶けてなくなってしまわぬよう
そしてただただ唾を飲むだけ

教えてくれ

この目が以前、何を映していたのか

今日見えているものは昨日と同じ、昨日の昨日と同じ
辿って、辿って、辿って、その昨日はどうだったのか?
覚えていない、どこかで違うはずなのに

──────────

「うーん、でも、同じものが見えてどうするんですか?
 それを表現するのは結局いつだって自分です
 僕は夢の続きなんて要りません
 見たいものを見つけて満足するよりは、
 自分に対する要求を見失わないようにしていたいですね

──────────

閉じたくてもまるで閉じなかった目を塞ぎ
動かしかたすら忘れていた瞼を持ち上げる

見えるものはなにも変わらない

でも、見ようとするものはもう違う

ああ、そうか
至極単純でつまらない、すぐに忘れてしまう結論だ
こうなればもう、満足なんてしていられない
自分はただ恵まれているだけだった
比べたら埋もれる程度で、それを常に証明してやらなければならない
だから、敷居は羨望と嫉妬が決めていた

対象は自分を含んだ目に映る全て

こんなにも憎くて、ありがとう

──────────

「逆に聞いてもらうことになるとはね
 さて、久しぶりにペンが必要だ
 "ありがとうオリバーヒルベルトくん"
 
「いえいえ! 僕の悩みなんて、まあ、その、
 マミーちゃんの保存用写真集がなかなか手に入らないってだけですし
 第一こういう時はお互い様です
 それよりも、楽しみにさせて戴きますね、"魔力の書 第ニ巻"

 


 
posted by zusuyo at 00:00 | 101−125